特別な集団に対するARTの管理 Management of ART
for Special Populations
HIV感染乳児および小児の管理
母親がHIV治療を受けていない場合、子供のHIV感染率は高い
HIV-1の周産期の母子感染減少のための介入がない場合、小児のHIV-1感染率は妊娠可能な年齢の女性の感染率と同程度である。
思春期における成人のリスク行動を介したHIV-1感染を除き、現在、世界中の小児HIV-1感染症例のほぼすべての感染経路が、HIV-1の周産期の母子感染である。
HIV-1の周産期の母子感染は、母親がARTを受けていない場合1に15~45%の症例で発生し、12ヵ月齢まで母乳育児であった場合を含めると母子感染リスクは45%まで高くなる。
妊娠中、分娩時および出産時、ならびに母乳を介して感染する可能性がある。
資源が豊富な国のガイドラインは、母乳を介した感染のリスクを回避するために人工栄養を推奨している3,4。しかし、WHOは、世界の他の地域では、母親と乳児がARTを受けている状況下での1年間の完全母乳育児を推奨している1。
多剤併用ARTにより、先進国では周産期の母子感染率を1%未満に減少させることができる2。しかし、女性のHIV-1感染が認識されない、および/または治療が受けられないことが、依然として世界中にHIVの周産期の母子感染が存続している一因となっている。
参考文献
- World Health Organization. Mother-to-child transmission of HIV. Available at: https://www.who.int/teams/global-hiv-hepatitis-and-stis-programmes/hiv/prevention/mother-to-child-transmission-of-hiv. Accessed July 12, 2021.
- Dorenbaum A, Cunningham CK, Gelber RD, et al. Two-dose intrapartum/newborn nevirapine and standard antiretroviral therapy to reduce perinatal HIV transmission: A randomized trial. JAMA. 2002;288:189-198.
- Panel on treatment of HIV-infected pregnant women and prevention of perinatal transmission. Recommendations for use of antiretroviral drugs in pregnant HIV-1-infected women for maternal health and interventions to reduce perinatal HIV transmission in the United States. Available at https://clinicalinfo.hiv.gov/sites/default/files/guidelines/documents/Perinatal_GL.pdf. February 10, 2021. Accessed July 12, 2021.
- European AIDS Clinical Society. EACS Guidelines, version 11.0. October 2021. Available at: final2021eacsguidelinesv11.0_oct2021.pdf (eacsociety.org)/. Accessed Feb 24, 2022.
リスクのある乳児ではHIV-1感染の早期診断がきわめて重要
リスクのある乳児ではHIV-1感染の早期診断が、その後治療を開始するためにきわめて重要である。
HIV-1に曝露されたすべての乳児は、生後約15~18ヵ月までは母親のHIV-1抗体を保有している1。
- •したがって、小児の早期診断は、通常はHIV-1 DNAまたはHIV-1 RNA定量のためのPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)技術によるウイルスの同定に頼っている。前者は宿主ゲノムに組み込まれたウイルス量を測定し、後者は循環血漿中のウイルス量を測定する。
乳児が子宮内で感染した場合、通常は出生後48時間以内にPCR検査陽性となるが、分娩時および出産時に感染した乳児では、出生時のHIV-1 DNAおよびHIV-1 RNAのPCR検査は陰性となり、その後、出生後1週間~2ヵ月後に結果が陽性となる場合がある1。
授乳中の乳児はHIV-1への曝露が継続しているため、いつでもHIV-1 DNAまたはHIV-1 RNAのPCR検査結果が陽性となる可能性がある。HIV-1陽性の母親から母乳を介して伝播するリスクは約16%である2。
したがって、出生後最初の数ヵ月間はPCR検査を繰り返し行うことが感染のタイミングを特定するためにきわめて重要であり、授乳していない場合は、生後4週間までにPCR検査結果の感度が96%に達する3,4。
HIV-1感染のタイミング(子宮内 vs 分娩時)は、乳児のその後の臨床経過をある程度予測する5。
- •子宮内で感染した乳児は、早期から長期的にHIV-1 RNA量が増加するため、AIDS指標疾患の早期発症がよく認められる。
非母乳児に対するPCR検査は、生後14~21日、1~2ヵ月時、4~6ヵ月時に実施しなければならない。また、母乳児に対しては検査を継続しなければならない6。
参考文献
- Bryson YJ, Luzuriaga K, Sullivan JL, et al. Proposed definitions for in utero versus intrapartum transmission of HIV-1. N Engl J Med. 1992;327:1246-1247.
- Fowler MG, Newell ML. Breastfeeding and HIV-1 transmission in resource-limited settings. J Acquir Immuno Defic Syndr. 2002;30:230-9.
- Dunn DT, Newell ML, Ades AE, et al. Risk of human immunodeficiency virus type 1 transmission through breastfeeding. Lancet. 1992;340:585-588.
- Nielsen K, Bryson YJ. Diagnosis of HIV infection in children. Pediatr Clin N Amer. 2000;47:39-63.
- Dickover RE, Dillon M, Gillette SG, et al. Rapid increases in load of human immunodeficiency virus correlate with early disease progression and loss of CD4+ cells in vertically infected infants. J Infect Dis. 1994;170:1279-1284.
- Panel on treatment of HIV-infected pregnant women and prevention of perinatal transmission. Recommendations for use of antiretroviral drugs in pregnant HIV-1-infected women for maternal health and interventions to reduce perinatal HIV transmission in the United States. Available at https://clinicalinfo.hiv.gov/sites/default/files/guidelines/documents/Perinatal_GL.pdf. February 10, 2021. Accessed July 12, 2021.
小児へのARTの実施は困難な場合がある
小児に対するARTレジメンの計画は困難な場合がある。
小児に関するデータが不足しているため、小児では、成人を対象とした臨床試験で得られたデータからARTの有効性を推定することが多い。
さらに、小児と成人には、年齢による大きな相違が認められる。
- •これには身体組成、腎排泄、肝代謝および消化管機能が含まれる。これにより、小児と成人との間には、薬物の分布や代謝、薬物クリアランス、薬物投与、毒性に違いが生じる。
- •さらに、遺伝子多型の存在により、ある特定の抗HIV薬のタンパク結合および薬物クリアランスが人種によって異なる場合がある。
多くの場合、乳児および小児に対する治療用量は入手できない。ほとんどの抗HIV薬に関して、小児用の液体製剤や口当たりの良い製剤は存在しない。
すべてのガイドラインが小児に対する迅速な治療開始を推奨1-3
すべての主要な治療ガイドラインにおいて、小児に対してARTを速やかに開始するよう推奨している1-3。
DHHS(米国)、PENTA(欧州)、およびWHOは、HIVに感染したすべての乳児、小児、青少年に対してARTを例外なく推奨している。
ARTの迅速な開始(DHHSは診断直後、または診断後数日以内の開始と定義)が治療の目標である。
治療開始に際しては、ARTのアドヒアランスの重要性とそのためのサポート体制についての話し合いを同時に行わなければならない。米国のガイドラインと同様、すべてのHIV感染小児に対して治療が推奨されている。
WHOのガイドライン委員会では、特定のグループの優先順位が若干異なっている。すなわち、年齢がより低く、免疫力が低下しているグループを優先順位リストの上位に置いている3。
参考文献
- Panel on Antiretroviral Therapy and Medical Management of Children Living with HIV. Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in Pediatric HIV Infection. Available at https://clinicalinfo.hiv.gov/sites/default/files/guidelines/documents/PedARV_GL.pdf. Dec 30, 2021. Accessed Feb 24, 2022.
- European AIDS Clinical Society. EACS Guidelines, version 11.0. October 2021. Available at: final2021eacsguidelinesv11.0_oct2021.pdf (eacsociety.org)/. Accessed Feb 24, 2022.
- World Health Organization. Update of recommendations on first- and second-line antiretroviral regimens. Geneva, Switzerland: World Health Organization; 2019 (WHO/CDS/HIV/19.15). Available at: https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/325892/WHO-CDS-HIV-19.15-eng.pdf?ua=1. Accessed July 12, 2021.
米国:小児に対する一次治療として推奨されるARTは年齢で層別化
米国の治療ガイドラインでは、小児に対して年齢に応じたARTレジメンが推奨されている。
最初のレジメンの選択は、提案されたレジメンの特徴、患者の特性、薬効、患者および家族の好み、ウイルス耐性検査の結果など、複数の要因に基づいて個別化すべきである。
治療未経験の小児に対しては、NRTI 2剤+INSTI 1剤、ブーストしたPI 1剤またはNNRTI 1剤を含む3剤によるARTレジメンが推奨される:
- •有効で忍容性の高いARTレジメンの投与を受けている小児は、その併用レジメンがもはや推奨されるレジメンではない年齢になったとしても、そのレジメンを継続できる。
- •生後3ヵ月未満の乳児に推奨されるNRTIバックボーンは、ZDV+3TCまたはFTCである。生後1ヵ月以上~6歳未満の小児には、ABC+3TCまたはFTCのいずれかの使用が推奨される。6歳以上の小児および青少年には、ABC+3TCまたはFTCまたはFTC/TAFのいずれかの投与が推奨される。青年期の患者については、成人および青年期のガイドラインを参照する。
参考文献
- Panel on Antiretroviral Therapy and Medical Management of Children Living with HIV. Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in Pediatric HIV Infection. Available at https://clinicalinfo.hiv.gov/sites/default/files/guidelines/documents/PedARV_GL.pdf. Dec 30, 2021. Accessed Feb 24, 2022.
欧州:すべてのHIV感染小児および青少年に対して推奨されるART1
また、これまで述べてきたことと同様、PENTAの欧州の治療ガイドラインでも、小児に対して年齢に応じたARTレジメンを推奨している。
- •PENTAのガイドラインでは、3歳まではNVPがLPV/rとともに推奨薬剤であり、これは米国のガイドラインとは異なる。3歳に達した小児では、NVPが代替薬となる。ドルテグラビルおよびブーストしたプロテアーゼ阻害剤がレジメンとして推奨されるその他の薬剤である。
PENTAのガイドラインでは、生後2週までの乳児に推奨されるNRTIバックボーンはZDV+3TCであるとされている。ほとんどの場合、生後2週以降、6歳を超えるまでは、NRTIバックボーンとしてABC+3TCが推奨される。6歳を超えた時点で、TAF/XTC(3TCまたはFTC)を検討することができる。
参考文献
- European AIDS Clinical Society. EACS Guidelines, v 11.0. October 2021. Available at: final2021eacsguidelinesv11.0_oct2021.pdf (eacsociety.org). Accessed Feb 24, 2022.