抗HIV薬療法の概要 OVERVIEW OF ANTIRETROVIRAL
THERAPY
一次治療としてのARTレジメンの選択
抗HIV薬はHIVの生活環の各段階を標的とする
米国および欧州において、現在、HIV感染症の治療薬としては、7つの異なる作用機序を持つ45種類の抗HIV薬が承認されている。
発展途上国では、利用できる薬剤数はそれより少なく、WHOは、未治療のHIV感染者への治療として、承認されている2つのARTレジメンを記載している。どれが使用できるかは、利用可能性に応じて現地のガイドラインで規定される。
ARTの主要な目標は、ウイルス学的抑制を達成することである。
抗HIV薬の各クラスは、HIV-1の複製サイクルにおける特有の段階を標的としている。クラスには以下が含まれる:コレセプターCCR5阻害剤、侵入阻害剤(融合阻害剤および接着阻害剤を含む)、核酸(ヌクレオシド)系逆転写酵素阻害剤(NRTI)、非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)、プロテアーゼ阻害剤(PI)、インテグラーゼ阻害剤(INSTI)および成熟阻害剤。8番目のクラスの抗HIV薬であるカプシド阻害剤は現在開発中である。
侵入阻害剤、インテグラーゼ阻害剤、成熟阻害剤、カプシド阻害剤、ヌクレオシド系逆転写酵素トランスロケーション阻害剤は、臨床試験で用いられている抗HIV薬のクラスである。
利用可能な抗HIV薬
現在、米国および欧州では45種類の抗HIV薬が利用可能である。スライドに作用機序別に示した。
我々が利用可能な薬剤には、核酸(ヌクレオシド)系逆転写酵素阻害剤、非核酸系逆転写酵素阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、インテグラーゼ阻害剤、CCR5受容体阻害剤1剤、点滴静注用の接着後阻害剤のイバリズマブがあることを示している。
融合または侵入阻害剤としては2つの薬剤、enfuvirtideとfostemsavirがある。複数の併用レジメンが利用可能であり、初期から2020年までの間に、レジメンの一部は簡素化され配合剤となり、1日1回1錠服用の併用レジメンになってきている。
一次治療としてのARTは患者の特性に基づいて選択
現在の治療ガイドラインは、NRTI 1~2剤およびインテグラーゼ阻害剤1剤でARTを開始するよう推奨している。どの併用療法を用いて治療を開始するかの検討の際に、医療提供者は、このスライドに記載されている要因に基づいてレジメンを選択しなければならない。
一次治療に使用される抗HIV薬の検討の際には、患者の特性に基づいて選択しなければならない。非常に重要な点の1つとして、評価の際には患者の準備性が非常に重要である。近年、ARTは即時開始する方向に移行しつつあるが、ここでもまた、患者がARTを開始できる状態であるかの確認が重要である。準備ができていない場合は、アドヒアランスの障壁となっているものは何か、障壁は何か、なぜ患者はARTを開始したくないのかを明らかにする必要がある。また、費用や潜在的な薬物毒性を考慮し、さらに、薬物相互作用もつねに考慮する必要がある。現在、患者は何を服用しているのか、これには、潜在的に相互作用の可能性のある処方薬および市販薬、ハーブサプリメント、ビタミン剤などが含まれる。
ベースラインのCD4陽性細胞数およびウイルス量も必ず調べる必要がある。一部のレジメンは、CD4陽性細胞数が200細胞/mm³未満またはウイルス量が特定の閾値を超えているときに使用すると治療効果が下がってしまうためである。そして、血液検査でHLA-B*5701保有の有無を調べ、陽性の場合は、アバカビルまたはアバカビルが含まれる配合剤をアレルギーとして記載し、患者に投与してはいけないことを知っておかなければならない。
妊娠可能な年齢の女性への投与の検討の際には、その女性の妊娠の有無や妊娠する可能性を考慮することが重要である。妊娠を予定している患者には使用してはいけない薬剤があるため、話し合いが必要である。
また、非常に重要な点として、すべての併存疾患を調査することである。一部の薬剤は、特定の併存疾患があると通常の効果が得られない可能性があるだけでなく、併存疾患があると患者が服用する薬剤が増えることも念頭に置くべきである。例えば、心血管疾患患者が他に多くの治療レジメンの投与を受けていることが分かっている。例として、スタチンやコレステロール値を下げる可能性のある薬剤は、心筋梗塞を発症したあとの標準治療としても使用されている。
スタチンと相互作用する主要な抗レトロウイルス薬がいくつかあるため、その点に留意しなければならない。上記のすべての併存疾患において同じことが言える。そして、ウイルス耐性検査の結果を入手する必要がある。
DHHS、IAS-USA、EACSおよびWHOの成人HIV感染者のガイドライン
欧州、DHHS、IAS-USA、WHOのガイドラインも、ARTレジメンに関する推奨は類似しており、INSTI+NRTIバックボーンを支持している。これらの併用レジメンは、いずれも有効であることが示されている。しかし、それぞれの抗HIV薬およびレジメンによって、薬物動態プロファイル、薬物相互作用、副作用および毒性が異なることに注意しなければならない。一部の一次治療としてのレジメンは、1日1回1錠レジメンとして処方されている。
レジメンに最適な薬剤を選択する際、治療を受ける患者の特定のニーズ、状況、併存疾患を考慮しなければならない 。考慮しなければならない重要な問題は、アドヒアランスの障壁と生活習慣(例えば、1日1回 vs 1日2回レジメン、食事とともに服用する必要があるかどうか、配合剤)、併存疾患(例えば、B型肝炎、 腎疾患)、妊娠の有無、忍容性(HIV感染者が耐えられる副作用)である。忍容性が良好で、患者の生活習慣に適したレジメンであれば、そのレジメンは成功するだろう。
今後、毒性(代謝、心血管、腎臓を含む)が少なく、アドヒアランスを高める製剤で最良の長期持続性が得られる効果的な組み合わせを明らかにする新しいデータに基づいて、推奨される組み合わせが変更される可能性がある。
3TC:ラミブジン、ABC:アバカビル、ART:抗レトロウイルス療法、BIC:ビクテグラビル、BID:1日2回、c:コビシスタット、CrCl:クレアチニンクリアランス、DHHS:米国保健福祉省、DOR:ドラビリン、DRV:ダルナビル、DTG:ドルテグラビル、EACS:欧州エイズ臨床学会、eGFR:推定糸球体濾過率、FTC:エムトリシタビン、HBsAg:B型肝炎表面抗原、IAS-USA:国際エイズ学会-米国、QD:1日1回、RAL:ラルテグラビル、RPV:リルピビリン、r:低用量リトナビル、TAF:テノホビルアラフェナミドフマル酸塩、TDF:テノホビルジソプロキシルフマル酸塩、WHO:世界保健機構
特定の臨床状況と代替レジメン
ガイドラインは、平均的な患者と医療提供者を考慮して作成されている。しかし、特定の患者では、代替レジメンや戦略も有効な場合がある。
併存疾患と薬物毒性の管理が、現在の抗HIV治療における重要な問題の1つとなっている。ガイドラインに代替レジメンまたは可能なレジメンとして記載されている併用療法は、特定の状況に特に適している場合があるため、そのような特性を有する患者にはそのレジメンも投与可能である 。
その他の治療レジメンは、現時点では十分なデータが得られていないため、推奨レジメンまたは代替レジメンとして推奨できない可能性がある。抗HIV薬に関する知識は絶えず変化しているため、新たなデータが得られた場合には、ある薬剤または薬剤の組み合わせが推奨されるか、あるいは可能な代替レジメンのリストから削除される可能性がある。
また、治療選択肢に新しいクラスの薬剤が追加されることは、多くの治療法の組み合わせの可能性や、新しい薬剤と他のクラスの薬剤との最良の組み合わせがまだ分からないということもある。
3TC:ラミブジン、ABC:アバカビル、ART:抗レトロウイルス療法、ATV:アタザナビル、AZT:ジドブジン、BID:1日2回、c:コビシスタット、CrCl:クレアチニンクリアランス、DHHS:米国保健福祉省、DOR:ドラビリン、DRV:ダルナビル、DTG:ドルテグラビル、EFV:エファビレンツ、eGFR:推定糸球体濾過率、EVG:エルビテグラビル、FTC:エムトリシタビン、HBsAg:B型肝炎表面抗原、INSTI:インテグラーゼ阻害剤、PI:プロテアーゼ阻害剤、QD:1日1回、RAL:ラルテグラビル、RPV:リルピビリン、r:低用量リトナビル、TAF:テノホビルアラフェナミドフマル酸塩、TDF:テノホビルジソプロキシルフマル酸塩